ヘルパー学校でも結構知り合いができ、中でも、某国立大学に通っているという青シャツさん(28歳。仮名。いつも青いシャツを着ているから)とは、帰り道が一緒なので登下校が一緒です。
この青シャツさん、三十路も近いというのに話すことは女の子のことばかりで、まぁ、これも「大学生」という立場がそうさせているんでしょうね。
で、青シャツさん、今日は僕にある計画を打ち明けてくれたのです。
青シャツさん「なぁ。どぶろくくん」
どぶろく「なんですか。青シャツさん」
青シャツさん「ウチのクラスにさ、ほら。可愛い子いるでしょう」
どぶろく「青シャツさん。ひょっとして、どんぐりさんのことですか?」
ヘルパー学校という場所柄か、僕のクラスの女性陣はかなり年齢層がたかいです。
そんな中で、一番若くてさわやかで、なにより可愛いのがどんぐりさん(21歳。仮名。自己紹介の時、山にどんぐり拾いに行くのが趣味といっていたから)です。
青シャツさん「そう。どんぐりさん。そのどんぐりさんです」
どぶろく「青シャツさん。どんぐりさんがどうしたんですか?」
青シャツさん「学校卒業までに、付き合ってみせるよ、俺」
青シャツさんは秘策でもあるのか、妙に自信満々でした。
しかし、青シャツさんの自信は、秘策を出す前に打ち砕かれることになりました。
教室へ着くと、どんぐりさんが1歳くらいの子供を連れてきていたのです。
どぶろく「青シャツさん。どんぐりさんが、愛の結晶を連れてきてますよ……」
青シャツさん「あ、甘いよ。どぶろくく。どんぐりさんは君より年下だぞ? 子供がいる可能性は低い。あれはきっと、親戚の子供かなにかをだな……」
子供「ママー」
どぶろく「青シャツさん。あの子供、どんぐりさんを『ママー』って」
青シャツさん「あの年頃の子供は、女性をみたら誰彼かまわず『ママ』と呼ぶもので……」
どんぐりさん「松ぼっくり太ちゃん(仮名。適当)どうしたの? おしっこ? 今、ママが連れて行ってあげるからね」
どぶろく「青シャツさん。今、どんぐりさんが、愛しい我が子の名を、愛の結晶の名前を……」
青シャツさん「どぶろくくん『めぞん一刻』って知っているかい?」
どぶろく「青シャツさん。空想は空想です!」
青シャツさん「事実は小説より奇なりって言葉を知らないかい?」
どぶろく「青シャツさん。『めぞん一刻』は漫画ですよ」
と、その時。
見知らぬ男性が教室に入ってきました。
男性「おい、どんぐり。松ぼっくり太、連れてくぞ」
どんぐりさん「あ、うん。よろしくね」
男性「じゃ行くぞ」
他の生徒さん「どんぐりさん。今の人は?」
どんぐりさん「今の人ですか? 夫です」
その日、青シャツさんは終始無口でした。