マルぼんと暮らす 大沼奔るの巻


ヒロシ「おおおおお」


マルぼん「ヒロシのやつ、また横山光輝風に泣いてやがらあ。おい、どうしたんだ。またナウマン象に暴力を振るわれたか。金歯の自慢話(『余の辞書に不可能の文字はない』『余は生まれついての将軍である』『朕は国家なり』『パンがなければデザートを食べればいいのに』『余の顔を見忘れたか!』など)によってプライドをズタズタにされたか。それとも、選挙が近くなったせいで色々活発になったルナちゃんに迫られて、ぜんぜん応援していない候補者に一票投じるハメになったのか」


ヒロシ「隣の家の犬作老人(68)がひどいんだ」


マルぼん「……せめて同年代限定でいざこざ起こしてくんない?」


ヒロシ「そんなこと言わずに話を聞いておくれよう。あのね、さっき、『犬作老人が最近、パソコンを習い始めた』って話を聞いたから『棺おけに片足突っ込んでいるくせにいまさらパソコン習うのかよ(笑)』と冷やかしに行ったんだけど、犬作老人ときたら『生涯学習ってやつじゃよ。人はいくつになっても学ぶ権利がある。学ぶ意欲さえあれば、人は死ぬまで学生なんじゃ』とか言いやがって、不覚にも僕、その言葉にひどい感銘を受けちまって……なにかを学びたくなったんだ……生涯学習ってやつをしたくしてしょうがなくなっちまったんだ!」


マルぼん「小学生なんだから学校行けよ。学びたいなら」


ヒロシ「義務(休食費)は果たさず権利(給食)だけ主張するのが、21世紀流なんさ。」


マルぼん「おやおや、とんだ俗物だこと。まぁ、いいや。自分からなにかを学ぼうという気がまるでないキングオブ無気力のキミが、そういう気持ちになったことだけでもよしとしよう。最近取り寄せたカタログに、ぴったしな機密道具があったんだ」


ヒロシ「ほうほう」


マルぼん「生涯学習を望む人が気軽に通信講座ができる機密道具なの。資格獲得役立ったり、趣味に実用などに活かせる5000にも及ぶ豊富な講座から学びたいものを選ぶと、わかりやすテキストや教材をすぐに送ってもらえる。その名も『アナタ・ハ・デッキール』」


ヒロシ「5000も講座があるなんて。優柔不断(川で2人の子供が溺れているのを見つけた時どちらを先に助けるか決められないくらい)な僕には決められないよ」


マルぼん「『アナタ・ハ・デッキール』にはそういう優柔不断な人のための機能もついている。いくつかの質問を答えるだけで、その人のうちに眠る秘められた才能を見つけ出し、その才能を開花させるのに適した講座を導き出してくれるんだ」


 ヒロシはその機能を利用することにし、『アナタ・ハ・デッキール』のだす質問に答えました。すると……


ヒロシ「なになに、僕に適した講座は……『ペン習字』『活け花』『カバディ』『バードウォッチング』『似顔絵』『さんかくべース』『限定版商法』『声優』『万引きGメン』『ピッキング』『スキニング』……膨大な数じゃないか」


マルぼん「喜べよ。君にはそれだけの才能が眠っているということだぜ」


ヒロシ「そ、そうか。そうだよね。ようし、僕、全ての講座に挑戦して、必ずや才能を開花させてやるぞ!」


 数日後、ヒロシの部屋には、もうなにがなんだかわからない数の教材と、請求書(一講座あたり、25万円)が溢れかえっていました。そしてヒロシの手元には、残高0円の通帳が。


ヒロシ「とほほほ。えらいことになった」


マルぼん「でもまぁ、よい勉強になったと思うぞ」


ヒロシ「そうか。そうだよね。『大損しない術』を学ばせてもらったと思えば安いもんだ。はははは……」


 これから数年後、ヒロシは「必ず儲かる」という話にのって、多額の現金を払って『よい勉強』をすることになります。


 さらに数年後、「あなた自身が親になって、会員を増やせば、100万円の投資金がわずかな期間で1億円になりますよ」という話にのって、多額の現金を払って『よい勉強』をすることになります。


 またまた数年後、「借りた金の返済期限が迫ったら、別の金融機関からお金を借りてそれで返せばいいんです。そのお金の返済が迫ったら、また別の金融機関から借りる。ほら、お金の永久機関ですよ!」という話にのって、多額の現金を払って『よい勉強』をすることになります。


 その数年後も、さらにさらに数年後も、ヒロシは多額の現金を払って『よい勉強』をすることになります。そう、ヒロシの生涯学習はまだはじまったばかりなのです。長い長い、生涯学習という名の坂を、ヒロシはようやくのぼり始めたのです。未完。