マルぼんと暮らす ピンクのリップはスィートマジックの巻


 ヒロシが学校へも行かずに部屋に閉じこもって、アニメのDVDばかりを観ています。「おいおい、いい加減学校へ行ったらどうだ。ぶっちゃけな、おまえさんに平日の昼間から家におられると、昼飯をいちいち準備しなくちゃならねえから、うざいことこの上ないんだ。いいか、明日は学校へ行けよ。いいな! この虫やろう!」と、なんのアニメを観ているのかをマルぼんが尋ねたところ


ヒロシ「『ときめき巌流島・ムサシくんとコジロウちゃん』ってアニメさ!」
 

 ヒロシはこの『ときめき巌流島・ムサシくんとコジロウちゃん』にえらくはまっているそうで、特に主人公であるジョニー北村というキャラに対しては尊敬の念さえ抱いているとか。


ヒロシ「ジョニー北村は凄腕のガンマンで、賞金稼ぎで、お尋ね者を求めて西へ東へ各地を放浪しているんだ。冷徹な性格なんだけど、時にやさしさを垣間見せて、そこがたまらなくかっこいいんだ! あと、かっこいいから、行く先々で美女にもてまくるの!」


「ボクモジョニー北村ミタイナ大人ニナリタイ」。瞳を輝かせて語るヒロシでありました。


ヒロシ「ねえ、ジョニー北村の如くなれる機密道具だしてえ」


マルぼん「飲めばどんなコスプレでも容易にできてしまう『コスプレ青酸カリ』という機密道具があるからこれでジョニー北村のコスプレでもするかい?」


ヒロシ「いや、コスプレとかじゃないんだ。僕は、身も心もジョニー北村のごとくなりたいんだよ」


マルぼん「身も心もジョニー北村みたいになれるよう、今から努力すればいい」


ヒロシ「努力してジョニー北村みたいになっても、僕の境遇には合わないだろう」


マルぼん「はぁ?」


ヒロシ「僕は『大沼うどん子とどこの馬の骨ともわからない行きずりの男との間に生まれた、毎日毎日とくに代わり映えのない平凡な毎日を送っている男子小学生』という境遇だ。努力してジョニー北村のごとくかっこいい男になっても、こんな境遇じゃかっこいいどころかただのギャグだろ。ジョニー北村はひとりさすらう賞金稼ぎだからかっこいいんだ。僕は身も心も境遇も、ジョニー北村のごとくなりたいの!」


マルぼん「美女にもてまくるという境遇がうらやましいだけだろう」


ヒロシ「ちが、ちがうよう」


マルぼん「決心は硬いんだなぁ。ようがす、この携帯電話を使え!」


ヒロシ「これは?」


マルぼん「『創造主へのホットライン』さ。この電話は、この世の全ての命を生み出した創造主に直通している。創造主は、自分の生み出したものの全てを自由に変えることができる。無論、境遇とかも自由にかえることができるんだ。創造主に、自分の境遇をジョニー北村のそれに変えてくれるよう直談判するがいい」


 マルぼんが『創造主へのホットライン』をヒロシに渡して数時間後。


ヒロシ「話はついた。ジョニー北村の境遇がわかるものを送ってくれたら、それを参考にして今日にでも僕の境遇を変えてくれるってさ。ちょうど『ときめき巌流島(以下略)』の設定資料集を買ったばかりだから、こいつを送るよ。まだ目次も読んでいないけど、仕方がない」


マルぼん「えらく分厚い設定資料集だね」


ヒロシ「作中では明かされない、数々の裏設定まで記載されているらしいからね。『ときめ(以下略)』は裏設定が半端なくあることでも有名なんだ」


 ヒロシは『と(以下略)』の設定資料集を郵送で創造主に送りました。郵送で。「これで僕も、あこがれのジョニー北村とおんなじ境遇になれるぞう。むふふ。美女にもてまくり」とか思いつつ、郵便局からヒロシが戻ると、家ではママさんとパパさんが血まみれになって倒れていました。


ヒロシ「かあさん! それからかあさんと男女の仲になっていたおじさん! ちくしょう、誰がこんなことを」


マルぼん「マルぼんです」


ヒロシ「な、なんだってー!?」


警官「警察だー! 神妙にしろ!」


マルぼん「犯人はヒロシです! 親殺しをしやがりました!」


警官「なるほど! 逮捕ダー!」


ヒロシ「ちがうんです、ちがうんです! マルぼん、なぜ、なぜこんなことを!」


マルぼん「うふふふふふ」


 警察に連行されるヒロシ。マルぼんは色々と工作したので、ヒロシは間違いなく有罪になることでしょう。うふふふふふ。

作中では触れられていないのですが、ジョニー北村は親友に両親を殺された挙句、その罪を着せられたという過去があるんです。賞金首を求めて旅をしているジョニー北村ですが、本当の目的は復讐で、自分を裏切った親友を探しているんですね。あと、親友に裏切られたショックで人間不信になっており、豚にしか欲情しなくなっています。作中、美女にもてまくるジョニー北村ですが、人間と結ばれるということは絶対にありません。最終回のあと、恋仲になったメス豚がとんかつにされてしまったことにショックを受けて、クスリに手をだしたジョニー北村は、山ほどキめたせいでオニのようにラリって、その状態で町へ繰り出します。恐怖を抱いた子供たちに石を投げつけられたので、奇声をあげて抵抗。その姿を見ていた宇宙人に興味を抱かれて拉致され、膝に機械片を埋め込まれます。すぐに解放されましたが、その経験からさらに心がゆがみ、最後は発狂します。(シェフの友社刊『どきどき巌流島・ムサシくんとコジロウちゃん設定資料集』より引用)