マルぼんと暮らす 夫婦赤信号の巻


 マルぼんとヒロシが町を歩いていると、とある居酒屋の前でビールケースを運んでいる金歯とでくわしました。


金歯「実は俺、居酒屋で働くのが夢だったんだ。親父もおふくろも『コンツェルンを継げ』と言っていたけどさ、俺は親の敷いたレールの上を走るのはいやだったんだ。んで、家出をしたわけさ」


ヒロシ「へえ! 最近学校に来ないと思ったら、そんなことになっていたんだ!」


金歯「おかげで勘当をくらっちまったけど、後悔はしていない」


 しばらくの間、マルぼんとヒロシは働く金歯を眺めていました。


マルぼん「金歯はえらいよ。自分の望む道を貫くため、親の敷いたレールを拒否したんだから」


ヒロシ「ふん。敷いてもらえるレールがあるだけマシさ。うちの親は、レールを敷いてくれたためしはない」


マルぼん「『こっちの生命保険は額が高いから今すぐ加入しなさい』とか、わりかし敷いてくれているじゃないか、レール」


ヒロシ「僕のことを想って、レールを敷いて欲しいの!」


マルぼん「そうだな。こいつを使ってみるか。『親の敷いたレール時刻表』。この時刻表に、親に敷いてもらいたいレールの内容、敷いてもらいたい日時を書き込めば、指定した日時に親がレールを敷いてくれるんだ。たとえば、日時を『2017年1月1日』レールの内容を『結婚相手』と書き込めば、2017年の1月1日に親がよい縁談を持ち込んできてくれる」


ヒロシ「そいつはごきげんだ! よし、まずは書こう。『20××年11月×日(はるか未来)、就職先をみつけてくれる』。これで就職活動をしなくていいぞ。あはははは。僕は電車さ! 親の敷いたレールの上を走る電車さ! 快速特急ヒロシ号!」


 テンションが高くなって、意味不明なことを口走るヒロシ。と、その時。


人身売買組織の人「ちわー、ヒロシくん。キミね、外国の有毒ガスが噴出しまくっている鉱山への永遠の就職が決まったんだ。だから迎えにきたよ」


ヒロシ「え」


ママさん「ごめんね、借金で、その」


 マルぼんは『親の敷いたレール時刻表』を確認しました。ヒロシは、『就職先を見つけてきてくれる』の日時を間違えて今日にしていたのです。時刻表どおり、ママさんはヒロシの就職先をみつけてきてくれたわけで。


ヒロシ「就職先を見つけてくる日時が早まっちまったというわけか!」


マルぼん「ヒロシ、おまえさっき、自分のことを『親の敷いたレールの上を走る電車』とか言ったよな!」


ヒロシ「い、言ったけど」


マルぼん「電車にはなぁ、ダイヤの乱れはつきものだぜ」