マルぼんと暮らす 俺は生涯ピーターパン、おまえは死ぬまでティンカーベルの巻


 ヒロシの野郎が、平日だってのに夜遅くまでパソコンの前に座ってカタカタカタカタ。「おい貴様、居候の身だからあまり言いたくないけど、もう我慢の限界だ。うるせえよ。おまえの、キーボード捌き、うるせえんだよ。眠れねえよ、俺。こんな眠れない俺でも、貴様を眠らせる(永久に)ことはできるんだぜ!」と、理由を尋ねてみると、「いや、その、あの、昨日観たアニメがすげえおもしろくて、その話題で盛り上がって」との返答。


マルぼん「そんなにおもしろかったんだ。ちょっと観てみたいなー」


ヒロシ「録画したヤツがあるから、なんなら観てみる?」


 午前3時43分、ヒロシが「すげえおもしろいズラ!」と言うアニメ『恋に恋するアメリカンエージェント・多吾作&シュトロンハイム』の視聴開始。午前4時9分、ヒロシが「すげえおもしろいズラ!」と言うアニメ『恋に恋するアメリカンエージェント・多吾作&シュトロンハイム』視聴終了。


マルぼん「申し訳ないが、普通におもしろくないのだけれど」


ヒロシ「ええー!? なんでだよーすげえおもしろかったじゃないか!」


マルぼん「どこらへんがおもしろいのさ」


ヒロシ「ほら、主人公が、某有名アニメの有名セリフを突然口走ったりするところとか」


マルぼん「単なるパロディシーンじゃないか」


ヒロシ「それがおもしろいの! おもしろいったら、おもしろいの!」


マルぼん「そうか。それなら仕方ないな。うん、仕方がない」


ヒロシ「そうだ、今気づいたぞ。僕もなにか有名作品のパロディをやれば、みんなに『ヒロシくんはおもしろいね』『ヒロシくんは平成の爆笑王だね』『ヒロシくんは日本の宝だね』とか言われるに違いないぞ!」


 ヒロシは周囲の人間から「彼はおもしろい」と思われたいようで、ウケ狙いで生まれたままの姿で登校したり、ウケ狙いで酸素ボンベをつけて学校の貯水タンクのなかに潜んでいたり、ウケ狙いで2階の窓から飛び降りたりすることもしばしば。でも、一度たりとも「おもしろい」と思われたことはなく、その苦悩の末、己の人生をなにかしらのパロディにすることに活路を見いだしたようです。しかしなんのパロディをすればいいかわからないし、そのしかたもわからない。


ヒロシ「現実生活を即座になんかのパロディにできる機密道具をだしてえ!」


マルぼん「『アドバ椅子』。前も使ったよな、たしか。この椅子は、座った人に適切なアドバイスをしてくれる」


 さっそく『アドバ椅子』に腰かけるヒロシ。


アドバ椅子「武士ノ格好ヲシテ、コノ電話番号ニ電話ヲカケ、コノメモニ書カレテイルコトヲ相手ニ伝エレバ、パロディニナリマス。ソレカラ、今カラ教エル本ヲ至急、買ッテキテクダサイ。」


ヒロシ「ようし、教えられた本を買ってきたぞー!」


 ヒロシは、『アドバ椅子』に教えられた電話番号に電話をかけました。


電話相手「もしもし」


 んで、渡されたメモの内容を読み上げます。


ヒロシ「『そちらに爆弾を仕掛けた。1億よこさないと、爆発させちゃうぞう』」


 数時間後、ヒロシはあっさり逮捕されました。この事件についてふれたワイドショーで、ヒロシが武士の格好をしていることを聞いたコメンテーターは「これは『爆弾正』の模倣犯じゃなかろうか」と言いました。


 爆弾正は、十数年前に世間を騒がせた爆弾魔。あちこちの企業に「爆弾をしかけたから銭よこせ」と脅迫電話をしまくった凶悪犯です。なぜだかわかりませんが、常日頃から武士のような格好をしていて、その異常性が話題になりました。


コメンテーター「聞けば、今回の事件の犯人は、『爆弾正』の事件に関する本を大量にそろえていたらしいじゃないですか。これは間違いなく模倣犯ですねえ」


 こうしてヒロシは己の人生をパロディにすることに成功しましたが、世間ではこのパロディをコピーキャットと呼びました。