マルぼんと暮らす


ヒロシ「うふふふ」


マルぼん「どうした、気持ち悪い笑顔など浮かべて」


ヒロシ「知り合いに鈴虫をたくさんもらってきたから、庭に放したの。これで今夜から、涼やかな虫の鳴き声を楽しめるよ」


マルぼん「すまんヒロシ。そんなこととは知らなかったから、鈴虫全部、喰っちまった」


ヒロシ「ええー!?」


 元来マルぼんという生き物は虫を食べて生きています。マルぼんもつい野生の血が騒いで、喰っちまったのです。


ヒロシ「虫ー! 虫の鳴き声ー!」


マルぼん「すまないすまないマルぼんの責任だ。代わりにこれを庭に撒こう。『虫玉』」

 
ヒロシ「なにこれビー玉?」


マルぼん「一見そう見えるけれど、この玉には古今東西あらゆる虫の鳴き声が録音されていて、いつでもどこでもその虫の鳴き声を楽しめるんだ。すきな時刻を設定すれば、その時間になると自動的に虫に鳴き声が流れ出す。いっぱいあるから、これを庭に撒こう」


ヒロシ「へえ、ちょっと貸してみてよ」


 ヒロシが手にとると、虫玉から虫の鳴き声が流れはじめました。


ヒロシ「わ。これは鈴虫の鳴き声だね。本物そっくりじゃないか」


 しばし虫の鳴き声に聞き入るヒロシ。


ヒロシ「本当にいい音。声だけじゃなく、虫の息遣いまで聞こえてきそうだ。なぁ、マルぼん」


マルぼん「う、うううう」


ヒロシ「どうしたマルぼん、マルぼん!」


 マルぼんという生き物は虫を食いますが、なぜか虫の鳴き声が苦手です。脳とか痛くなるのです。場合によっては死にます。実際、マルぼん死にかけです。


マルぼん「うう、ううう、ううううぐ」


ヒロシ「いかん、虫の息だ!」


 マルぼんは虫の鳴き声だけでなく、虫の息まで聞かせてくれる『虫玉』の効果は絶大だと思いました。