マルぼんと暮らせ


 地球温暖化の影響で微笑町もそこらじゅうが砂漠化して、ヒロシどもも通学が大変そうです。


ヒロシ「暑い暑い太陽死ね!」


ルナちゃん「この日差し、お肌に悪そう」


ヒロシ「ちょっと前に買った日傘は? 『お気に入りなの』とか気持ちの悪いこと言っていたじゃないか」


ルナちゃん「売ったわ。祭りがあったから」


 ルナちゃんの信仰している宗教では年に一度『全知全能神大感謝祭(オールスターだいかんしゃさい)』と呼ばれる催しがあり、この祭りでは『感謝費』という名目の寄付金を受け付けています。『感謝費』は通常の寄付より聖なるものと位置づけられていて、額が大きければ大きいほど、教団での地位が上がったりよいホーリーネームがもらえたりするので、信者はこぞって寄付します。この日のために金を貯めたり、祭りが近づくと家財道具を売り払って寄付金の足しにしたりするのです。


 ルナちゃんン家もそれは例外ではなく、お気に入りの日傘も売り払ってしまったようです。通常の寄付もコンスタントに行わねばいけませんので大変らしいです。


ヒロシ「そういえば、ルナちゃん1週間くらい前からずっと同じ服だね。他の服は売ってしまったんだね」


ルナちゃん「ああーだれか、日傘とかプレゼントしてくんないかしらー」


ヒロシ「よかったら、マルぼんからもらった未来の世界の日傘をあげようか」


ルナちゃん「わぁ、ありがとう」


 ヒロシのわたした日傘を差すルナちゃん。日傘の陰に入ると、少し落ち着いたようです。


ルナちゃん「あー一気に過ごしやすくなったわ」


ヒロシ「よかったよかった。あ、それ実は、未来の世界の日傘なの。あちこちにボタンがついているだろ。それを押したら、より涼しくすごせるようになる素敵機能が発動するよ。色々ためしてみなよ。たとえば、このボタンをおしたら、河のせせらぎや風鈴の鳴る音などの涼しげな音色が流れ始める」


ルナちゃん「ありがとう、ヒロシさん」


 ルナちゃん、ヒロシに感謝しつつ去っていきました。


ヒロシ「あ、しまった。ボタンのひとつが自爆スイッチ(いざというときのために、未来の世界では全ての商品につけることが義務付けられている)ということを説明するのを忘れていたぞ」


 そのとき、爆音が響きました。


 数年後、結婚したヒロシは二児の父となり、幸せに暮らしていました。今日は家族でお出かけです。


妻「あなたー先に出るわよー」


娘「おいてっちゃうぞ、パパー」


ヒロシ「待ちなよ、もう。せっかちさんだな、キミらは」


 先に出た家族に続いて外にでようとするヒロシ。玄関のドアノブを握った瞬間、電話が鳴りました。「やれやれ」と電話に出るヒロシ。


ヒロシ「もしもし大沼ですが」


電話の相手『ヒトリダケ、シアワセニ、サセナインダカラ、ネ』


ヒロシ「その声、まさか、まさか」


電話の相手『イタイ、イタイ、バクハツイタイ。イタイケド、ガマンスル、ガマンシテ、アナタヲズットミツメテイル』


 ガチャ。ツーツーツー。


 マルぼんは、ヒロシの人生にも陰(とびきり暗い)をもたらしてくれた未来の世界の日傘の効果は絶大だと思いました。