マルぼんと暮らす


ルナちゃん「ヒロシさん、いるー?」


 今日もルナちゃんは、ありがたい教えや政府陰謀論をとにかく訴える文章の書かれた小冊子を持ってヒロシのうちにやってきました。


ヒロシ「にたにたにた」


ルナちゃん「!! ヒロシさんてば、他の女の子を見てニタニタしている!」


 ヒロシはパソコンの前に座って、モニターに映っているアニメ絵少女にニタニタしながら、ひたすらマウスをクリックしています。


マルぼん「今ヒロシはギャルゲーの最中。なんでもえらくお気に入りのヒロインができたらしくて、そのヒロインのルートを何度も何度も何度も」


 料理に掃除に裁縫に、とにかく家事が得意で家庭的なそのヒロインは、見事にヒロシの心を『萌え』という鎖でがんじがらめにしてしもうたのです。


ルナちゃん「パソコンの中にしかいない女にしもべを取られるなんて耐えられない! なんとしてもそのヒロインより優れたところをみせなきゃなんないわ。あたしの家庭的なところを見せてあげる」


マルぼん「やるきだね、ルナちゃん」


ルナちゃん「まず料理。前に何度か、わが教団を辞めようとしている愚か者をみんなで料理したことがあるからこれは大丈夫。掃除も、『教団を内から変えていく』なんてバカなことを言っていたやつを掃除したことがあるからこれも大丈夫。問題は裁縫ね。やったことないわ」


マルぼん「ここの未来の世界の裁縫練習セットがあるよ。初心者でも簡単にわかりやすく裁縫の技術を身につけることができる。あ、しまった。糸がない。切らしてる」


ルナちゃん「それじゃ練習できないじゃない」


マルぼん「こいつは、どんなものでも糸の代わりにしてしまう。例えば、いまヒロシからむしりとった髪の毛。この髪の毛も、この裁縫練習セットで使えば、本物の糸と同じ長さ強度を誇るようになる」


 ルナちゃん、その場でセットを使って練習開始。もちろん糸の代りに、むしりとったヒロシの髪の毛を使っています。


ルナちゃん「ここをこうして、こう縫って……なるほど」


さすがは未来の世界の機密道具。物の数時間でルナちゃんの裁縫技術は格段に上達していきました。


ルナちゃん「ほらごらんさない、私のこの裁縫の腕」


ヒロシ「にたにたにた」


ルナちゃん「ちっ。まだ妄想の世界か。口惜しいな。おや、これは抱き枕」


マルぼん「あまりに萌えすぎて、件のキャラの抱き枕まで買ってしまったんだ」


ルナちゃん「ふうん。そうだ。ちょうどいいや。軽く嫌がらせ」


 ルナちゃんは懐から、自分の信仰する宗教のシンボルマーク(なんか、おっさんが太陽を食っている絵)のワッペンを取り出すと、抱き枕に縫い付けてしまいました。しっかりと縫い付けたので、外れる気配はありません。


ルナちゃん「ははは、ざまあみろ」


ヒロシ「貴様、なにしてんだ!! 僕の抱き枕を!」


ルナちゃん「キャー!!」


 その後色々あって、マルぼんとヒロシはルナちゃんを埋めるべく、学校の裏山へ向かいました。


マルぼん「なんとか処分できたし、さあかえろう」


ヒロシ「だめだかえれない。なにかのきっかけで埋められたのが見つかってしまうかもしれない。心配だ心配だ」


マルぼん「じゃあどうすんのさ」


ヒロシ「僕はここにいる。だれかがルナちゃんを掘り出さないように見張る」


 それから数年後。マルぼんがひさしぶりにいくと、ヒロシはまだ見張っていました。マルぼんは、ルナちゃん自体を糸にして、ヒロシを裏山に縫い付けてしまった裁縫練習セットは絶大だと思いました。