カネカネキンコ 愛の劇場 第8話


前回


 生と死。有限と無限。親子愛とロリコン愛。様々な葛藤の末、井村さんは「この世に存在してもよいひとだっちゃ」という結論がでた。なぜだろう、俺は嬉しくて嬉しくて仕方なく、「ことぶき園」に井村さん(睡眠薬が効いています)を連れ帰る途中、妙にテンションが高くなってしまった。すれ違う小さな女の子をみても、針で欲望を抑えることもなく、「もえ」と小声で呟いたりしている始末だ。


 そんな二十歳以上の人間が維持してはいけないテンションを保ちまくっている俺を、「ことぶき園」で待っていたのは、メガネの男だった。サイズがでかいせいかやたらとずれるメガネを指で「くいっ」と直すしぐさが異様にむかつくこの男、井村さんから会社と社会的地位を譲り受けた息子の1人である、ヒコマツさんだ。


「父をどこに連れて行っていたのです」


 ヒコマツさんが、聞いてきた。


「え、あの、その」


 まさか「殺そうと思って、いい感じの場所を探そうと思って外出してました! 今は大丈夫ですっ」とは言えない。


「たまたま父を訪ねてきてみれば、こんな状態。黙って入居者を外出に連れて行くのもどうかと思うのですが、4時間近くも帰ってこなかったそうでじゃないですか。納得をいく説明をしてください」


「……」


「答えられませんか、まぁいいです。どうせ、もうすぐこことはおさらばです」


「え」


「施設長にはさきほどお話したんですがね、親族や会社の連中を中心にね、やはり父が老人ホームに入っているのを快く思っていない人が多いのですよ。入居は父の意志で、我々は父の望みをかなえただけなんですが、ああもたくさんの人に文句を言われるとねえ」


 ようするに


「今週末で、父はここから出ることになりましたので」


 突然の別れだった。


 ヒコマツさんは「とりあえず、今日は父を引き取っていきます。手続きなんかは、また後日」と井村さんを連れて帰ってしまった。


 一週間後。ヒコマツさんが手続きに来た。彼は妙にやせこけていた。


「家の前に、近所の小学校の通学路があるんですが、最近、そこが天使の行き交う道に見えてきました」


 ヒコマツさんも、堕ちていた。ロリコンという名の、冥府魔道に。