カネカネキンコ 愛の劇場 第6話
「ふふうふふふ」
食事の席。井村さんの発する「ロリコン化波動」の存在を確信した俺の顔に、ひさしぶりに笑みが浮かんだ。己のロリコン化を自覚して以来、なにをするにも鬱々な気分が抜けなかったので、何日ぶりの笑顔かはわからない。あまりに久しぶりなせいか、目の前で飯を食っている女房も驚いた様子で、「我が伴侶は、なにもないのに突然笑い出す領域にまで達したか」という表情で俺を見ている。
「なにがおかしいのよ…もしかして気づいているの? 気づいていて私を小ばかにしているの?」
「いや、なにたいしたことじゃないんだ」
まさか、自分や同僚が女子小学生を見ると抱きつきたくなる人間になっていて、その原因が面倒を見ている年寄りにあるとは言えない。「あなたの伴侶はロリコンになりつつあります」とは言えない・
「ちょっとした問題があったんだけどな、その問題の原因がわかったんだよ。それがさ、嬉しくて」
「ふうん。で、その問題とやらは解決したの?」
「いや、まだだけど」
「それじゃ、原因がわかっても意味ないじゃん。解決法を見つけないと」
「あ」
そうだった。それもそうだった。俺は「原因を突き止めれば、ロリコン化もどうにかなる」とか思ってたが、原因がわかっても、どうにもなっていないじゃないか。俺のロリコン化は以前進行中で、今日はいつの間にか、家の近所の学習塾のまわりをうろうろしていたりした。それに気づいて時、針で刺した手が痛んだ。
「俺、寝るわ」
「あ、ちょっと」
浮かれていた自分がなさけなくなって、まだ9時だってのに俺は床に就いた。
「なにも解決していない。なにも解決していないんだ」
どうしよう。これからどうしよう。倉井のように、思い切って心療内科にでも通ってみるか。んでもって、休職してやろうか。いやだ、だめだ。俺がフェードアウトしても、井村さんには次の担当がつく。そしてそいつもロリコンになる。連鎖だ、連鎖。ロリコンの連鎖。
寝ころびながら、俺は色々考えた。時刻が翌日になった頃、俺は結論を導き出した。
「井村さんを殺して、俺も死ぬ」