カネカネキンコ 愛の劇場 第5話


前回


 井村明博さん。69歳男性。株式会社『井村キャタピラ』前会長。裸一貫で、大企業である『井村キャタピラ』を築き上げた立志伝中の人物である。


 厳しさのなかにもやさしさを秘めたその人柄は、家族・会社関係者をはじめ多くの人々に尊敬されており、『井村キャタピラ』を統括するだけでなく、地元の町内会長やPTA会長なんかも多く務めていたらしい。


 それらの役職をはじめ、すべてを信頼する3人の息子たちにそれぞれ託し、引退。現在は、「家族に面倒はかけられん」と「ことぶき園」で余生を過ごしている。けっして家族と折り合いが悪いわけではない。むしろ家族仲は良いほうで、「ことぶき園」に入所するにあたり、「泣きながら止める家族を説得する大変だった」と井村さんは語っている。実際、毎日のように家族が訪ねてきている。


 前にも述べたが、この井村さんが、「ことぶき園」のロリコン3人衆(敷田さん・倉井・俺)の唯一の共通点だ。ロリコン化現象になんらかの関わりがあると俺は思うのだが、確証がつかめなかった。


 確証が、確証がほしい。井村さんに、他人をロリコンにしてしまう力があるという確証が。


「もしかしたら、俺たち以外にもロリコンになってしまった人がいるかもしれないぞ」


 俺は、井村さんの周囲の人のことを調べてみることにした。頻繁に訪ねて来る井村ファミリーをまず調べようと思ったのだが、色々と法律がうるさそうなので中止。


「そうだ、新発田さん!」


 新発田さんは、井村さんの隣の部屋に入居している男性だ。食事の席も井村さんの隣で、ある意味、世界で一番井村さんの隣にいるとも言える。俺は、新発田さんの一挙手一投足に注目しまくることにした。


「おじいちゃーん」


 天使のような笑顔で、天使のような声をあげて、天使のようにホーム内を走っているのは、新発田さんのお孫さんの美江ちゃんだ。今年小学校にはいったばかりの可愛い盛りの女の子だ。思わず抱きつきたく…ブスッ(←俺が針で己の手を刺した音)。


「やぁ、美江ちゃん」


「おじいちゃん、元気〜」


「元気元気。美江ちゃんは?」


 新発田さんと天使のような…ブスッ(針の音)…美江ちゃんのやりとりは、どこにでもいる祖父と孫のやりとりそのもので、不自然な点はなかった。井村さんの人間ロリコン化波動(いま命名)は、肉親同士には効果はないのか。それともロリコン化波動など幻で、俺たちロリコン3人衆がガチでロリコンだっただけなのだろうか。


「元気だよ。学校でもお友達がたくさんできたし」


「お友達できたか。たくさんできた?」


「すっごいたくさん」


「そうかそうか。一度、お友達を連れて、おじいちゃんのところへ遊びにきなさい」


「ええ、でも〜」


「いいから、連れてきなさい」


「でも」


「絶対連れてきなさい! 絶対に、だ!」


「おじいちゃん!?」


「明日連れて来い! 明日だ! 連れてきたら、1万円やる! 翌日連れてきたら、さらに1万だ! 毎日連れてきたら、遺産は全部くれてやる! だから連れて来い! 小学生を! 女子小学生を!」


 泣き狂う孫を、「女子小学生!」と叫びながら責め立てる新発田さんを見て、俺は井村さんが発するロリコン化波動の存在を確信した。にしても、泣き叫ぶ美江ちゃんも…ブスッ(針)